コーヒーブレイク
胃癌の中には早期癌か進行癌かの判定が難しく、肉眼型分類の表記をどのようにしたらよいか迷うことがあります。その原因は肉眼分類の表記の仕方が早期癌と進行癌、つまり癌の深達度が粘膜下層までにとどまっているか、あるいはそれ以深まで浸潤しているかによって違うからです。従って、X線診断あるいは内視鏡診断上の肉眼型分類では正確な深達度診断が必要になります。そこで、早期癌と進行癌の肉眼所見の組織学的成り立ちから深達度診断について考えて見ることにします。

1)早期癌と進行癌の組織学的胃壁構築
2)進行癌の2型〜3型。あるいは。+cの診断
3)IIa+IIcとIIc+IIIの診断

胃癌の肉眼形態はいろいろで複雑な所見を呈します。
そこで、早期癌の進行癌の肉眼所見の成り立ちについて考えてみることにします。早期癌の肉眼所見は癌の粘膜進展とそれに伴ういろいろな生物学的な二次的変化が加わって成り立っていますが、粘膜固有層内に生じた形態変化が主体であります。
これに対して、進行癌では早期癌の肉眼所見の成り立ちに癌の粘膜下層以下への浸潤(深部胃壁も含めて)による変化が加わり、その肉眼形態はむしろ癌の深部浸潤に伴う形態変化所見が主体です。粘膜下層以下深部胃壁の変化所見をここでは粘膜下腫瘍的要素(以下、SMT所見と略します)と表現することにして、進行癌の肉眼所見の組織学的成り立ちについて眺めてみることにします。
進行癌に対して仮に、早期癌の肉眼分類の表現型を用いることにしますと、2型や3型はIIIあるいはIII+IIcにSMT所見が加わったことになり、III+IIc+SMTとして表わすことができる。
ところが、III型は厳密な意味では潰瘍の辺縁粘膜のごく一部に癌が存在していますので、これは肉眼的にも臨床診断上でも指摘することが難しく、潰瘍周囲のIIcを探すことで質診断を行うことが一般的です。従って、III=0(不可能であるので)とすると、前述したIII+IIc+SMT=0+IIc+SMTとなり、IIcとSMTが残ることになります。
結局、2型や3型に対する質診断あの指標となる所見は粘膜面のIIcに求められ、深達度診断はSMT所見に求めることになるのではないでしょうか。

実際の読影では以下のようでしょう。すなわち、周堤を伴うニッシェ(潰瘍)があって、ニッシェの辺縁または周辺に不整なはみ出し陰影が認められるので、この潰瘍病変は癌、そして周堤の外側縁が不規則な輪郭をしているので、潰瘍周囲の粘膜下層以深に浸潤した進行癌が考えられます。肉眼型は3型あるいは2型であります。しかし、これではあまりにも大まかすぎます。
私なら、このように読影します。大きなニッシェを取り巻く周堤様の隆起が見られますので、本所見を構成している基本所見は潰瘍(以下潰瘍部をIIIと表現することにします)+粘膜隆起と思います。そして、この隆起表面は周囲の正常粘膜と思われる部と大差はありませんから、隆起部は粘膜下層以下深部胃壁の肥厚に起因した隆起、つまりSMTの要素を持った隆起であると推定できますので、この病変の基本型はいわばIII+SMTであります。問題は、IIIの辺縁にIIc(悪性びらん)があるかどうか(これが良悪性判定の根拠の一つになる)、つぎにSMT所見は質的にどのような病変が考えられるかであります。

まず、潰瘍の質診断ですが、IIIの周囲あるいは辺縁に不整で淡いか濃淡の差のある陰影斑がありますので、これは悪性の潰瘍つまりIIIあるいはIII+IIcと判定できます。
次に、SMT所見部に壁の硬化ないし伸展不良像(二重造影像でひだ集中を伴っているものでは空気量でひだ間あるいはひだ先端の形態が変化するかどうか、変化しなければ壁の伸展像と見る)や隆起部の外側の輪郭が不規則(癌では粘膜下層での発育進展方向が一定でないことが多いので、隆起部の輪郭は平滑でなく不規則な形を呈する)な所見が見られますので、この部は癌の粘膜下層以下深部浸潤によって隆起し、しかも壁が硬いことが推定できますので、3型進行癌と診断できます。結局、病変を読影する際には、所見の成り立ちを分解して考えることが大切なように思います。
IIa+IIcでも癌が粘膜内にとどまるものと、粘膜下層以深に浸潤したものがあります。
一般に粘膜下層や固有筋層に浸潤したものでは陷凹部が深く、潰瘍形成による陥凹が多いことが特徴です。従って、深部浸潤を伴った小さな2型あるいは3型は、むしろIIa+IIIあるいはIIa+III+SMTとして表現したほうがよいのかも知れませんが、一般的な表現型としてははIIa+III(SMT所見を含める)と言うことになるでしょう。これで、質診断の指標となる所見の求め方や深達度診断の指標の求め方も分りやすくなるものと思います。


粘膜隆起の成因の読み方:
癌の粘膜内増殖による隆起病変では、隆起部粘膜の形態はIIaやIの像、つまり粗大顆粒状ないしは大小不揃いの顆粒が見られます。隆起部粘膜が非癌上皮の過形成、つまり腺窩上皮(表面上皮)の過形成である場合は、隆起部表面は一般に小さな顆粒を呈します。
隆起部粘膜の表面形態が周囲粘膜と同じまたはそれに近い場合は、隆起の成分は粘膜下にあると言いましたが、例外もあります。それは幽門腺粘膜領域で見られ、表面上皮(腺窩上皮)の過形成がなくても粘膜深部における幽門腺の過形成や腺管の膿疱状拡張を伴う場合です。これらでは、隆起部の表面は周囲粘膜と形態的な差は見られず、輪郭も平滑で不規則な形はとらないのが普通です。

その2)
胃癌の三角が何故大切か?。胃癌の三角の三要素は背景粘膜と癌組織型と肉眼型であります。
まず、1)癌の組織型は基本的に分化型癌と未分化型癌に分けられ、この二つの組織型は発生する母地粘膜と密接な関係があること(癌の組織発生:胃固有粘膜からは未分化型癌、腸上皮化生粘膜からは分化型癌が発生)、2)二つの組織型の間には発育進展形式ならびにそれに伴う二次的な粘膜の変化に明かな差が見られ、癌組織型によって肉眼形態、転移様式に差が生じること(癌の性質)、1)と2)の関係から母地粘膜と肉眼型との間には推移的な関係(合成関係)が導き出されるわけです。
しかし、母地粘膜の質(組織学的な粘膜構成)は加齢と共に恒常的に変化しますので、胃癌の診断ではこれらの経時的な粘膜変化所見をも考慮する必要があります。時間経過の診断上の目安は病変の大きさしかありません。このように癌発生粘膜の質的構成を推定することから母地粘膜を背景粘膜と言う言葉が用いられている訳です。
例えば、症例検討会で40歳の女性で潰瘍と言われて経過していたと言う症例呈示があったとする。40歳の女性の胃粘膜の質的な構成(胃固有粘膜と腸上皮化生粘膜の比)は腸上皮化生はあってもごく軽度であることが考えられます。
そして、その様な背景粘膜には中間帯に存在する消化性潰瘍(殆どは胃角部小弯側)を除くと、まず癌か悪性リンパ腫が推定されます。勿論、稀に胃型の分化型癌もあります。しかし、胃型の分化型癌では粘膜深部には低分化ないし未分化型癌が混在していることが多いのです。胃型の分化型癌の特徴は、分化型癌の特徴を持ちながら局所的にビランかあるいは潰瘍かしやすい性質を持ち合わせることでしょう。したがって、表面形態は隆起型であれば顆粒が小型で大きさも比較的揃っていることが特徴です。
陥凹型では大小顆粒状の凹凸が少なく、比較的平坦な所見を呈しますので注意が必要ですが、付着が良好な写真でしかも造影剤を病変部に流しながら撮影した像では局所的(小さな)にバリュウム斑が散在して認められることが診断の指標になります。

その3)
読影では一応、写真全体の像を見て、まず、1)明かな潰瘍病変や隆起病変があるかどうかを見る。次に2)その他の胃病変があるかどうかを見る。勿論、胃だけでなく食道や十二指腸に異常があるかどうかも見ておく必要がある。
潰瘍病変では、ニッシェ(明らかに限局した濃いバリュウムの溜まり像)があれば、ニッシェの周囲に不整な陰影斑があるかひだ先端の急なヤセや中断があるかどうかを見る。不整な陰影斑は粘膜面の部分的な陥凹による溜まり像と部分的な隆起によるはじき像(顆粒状陰影)があり、悪性像が明瞭なものではそれらの所見が顕著に表れているし、また周囲粘膜との間に病変境界が認められることが特徴である。境界が明瞭で分かりやすいほど悪性診断は容易である。背景粘膜と所見の特徴から癌組織型を想定して質診断や拡がり診断さらには深達度診断を行う。そのほうが、診断を誤ることがすくないからである。


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