胃X線写真の基本的な読影と診断について
これから学ぶ人のために
医療法人社団 進興会 オーバルコート健診クリニック 馬場保昌

読影の前に

正確な診断を行うには肉眼所見をなるべく忠実に表した写真(画像)が必要である。従って、読影では撮影された写真のでき具合を見て、どのような病変であれば拾い上げれるかを絞り込む必要がある。質のよくない写真で細かい所見を拾い上げ、診断しようとすると、診断を間違ってしまうからである。
まず、写真の像が鮮鋭(被写体コントラストがシャープ)であるかどうかを見る。被写体コントラストは、 X線発生装置の出力、管球焦点の大きさ、使用増感紙とフィルム、グリッド比(散乱線除去)、現像などに影響される。像を見て、幾何学的ボケ、やブレ、カブリの程度をチェックする。次に、各撮影法の利点が生かされているかどうかを見る。写真の質は、上記ハード面の他に撮影技術というソフトの質にも大きく左右されるからである。特に、二重造影像は造影剤の質や濃度、体位変換手技、撮影手技によって描出できる病変の形状、大きさ、部位が限られる。その他、胃液の質や量も微細な病変を描出できるかどうかに大きく影響するし、被写体の体型や基礎疾患の有無とその種類も関係する。

1.X線写真の読影は、なるべく撮影した順序で行う。
前記の被写体コントラストをチェックし、撮影手技では各種撮影法の利点が最大限に生かされているかどうか、とくに二重造影では撮影の基本原則(撮影体位、造影剤の付着状態、空気の質と量、二重造影の基本的撮影法;第1法と第2法)が守られているかどうかをチェックする必要がある。
2.X線所見を忠実に読む。
読影は全体所見から局所所見へ進める。異常所見だけでなく、正常像と思える像も読影する。所見の表現は、分りやすい言葉がよい。読影に慣れると、読みながら頭の中で鑑別診断を同時に行うこともできるが、主観的な読影になりやすいので、なるべく読影と診断は切り離して行ったほうがよい。全体的な所見から局所的な所見の順序で読影し、そのあとに診断に必要な所見に的を絞り、所見の分析を行なう。
3.読影の手順
全体像から局所像へ読影する。異常所見にも粗な所見と微細な所見があるが、まずは粗な所見があるかどうかを読影する。粗な所見とは、1)胃の位置や形の異常(位置、変形、伸展性)、2)限局性病変かびまん性病変か(異常陰影の境界が明瞭かどうかで判定する)、3)隆起病変か陥凹病変かである。基本的には隆起はバリュウムがはじかれた像(透亮像)、陥凹はバリュウムの溜まり像(ニッシェ)として表れる。以下、充盈像、二重造影像、圧迫法に分けて読影上の注意点をまとめることにする。

1)充盈像
a.胃の位置や形の異常が現れる。胃の形では鉤状胃、下垂胃、横胃、牛角胃、瀑状胃、サイフォン胃のどれに当たるか。日本人では鈎状胃が多い。病的な胃の形には嚢状胃(蝸牛殻状内翻;Bergmann 1926)、砂時計胃、B型胃、鉄管状胃、切除胃、幽門狭小胃などがある。蠕動や壁の緊張状態(抗コリン剤が使用されているかどうか)もみておく。
b.大小彎(X線的な大小弯線)のバランス(均衡)や胃辺縁の異常の有無を読む。小弯短縮が著明な胃は大小弯の均衡がくずれており、嚢状胃がその代表である。これらの胃では小弯側の線状潰瘍や多発潰瘍をまず考える。近年、胃の機能温存を目的とした縮小手術が行われるようになっている。切除部分をなるべく少なくした、楔状切除、部分切除、噴門切除、横断切除などがある。部分切除や横断切除を行った胃は著明な小弯短縮に似た像として認められる。胃辺縁の異常には陰影欠損、ニッシェ(突出像)、壁硬化(あるいは伸展不良)、壁不整、直線化、複線化、などがある。
読影になれない人は、なるべく難しい表現や固有名詞は使わないようにしたほうが上達の早道である。はじめのうちは次の様に表現すればよい。

正常胃:“小弯線を胃上部から追っていくと、この部は外側にゆるやかに膨らんだ平滑な線(胃壁の伸展がよいこと)である”、“幽門部のこの辺りでは小さな突出あるいは膨らみががあり、それから幽門輪部近くで少しへこんでいるが、辺縁線は平滑で、左右対称であるので蠕動による変化と思われる”などと表現したり、“大弯側の線は大きな波状あるいはゆるやかな凹凸であるが、特に直線化はなく、既存の粘膜ひだによる変化所見と思われる”、“大小彎線には明かなギザつきや直線化さらには陰影が欠損した所見はありません”などである。少し慣れたら、“このあたり”とか“この部”などの表現はなるべく避け、体下部や幽門部など解剖学的な部位の名を使用したほうがよい。

異常な胃:“よく見ると、このへこんだ部はやや突っ張っており(直線的であり)、よく見るとギザギザしている(不整である)”、“胃角部の線(小弯側の辺縁)は、このあたりから直線的であり、その部の少し内側にもう一本の線(複線化)が見られる。この内側の線は半月状でスムースである”、“このへこんだ部の口側と肛門側の辺縁は直線的であり、またわずかに不整な線であるので、これは粘膜が不整であり、かつ膨らみが悪いこと(陰影欠損像)が考えられる”などである。
まず、所見を言葉で表現し、その後にこれらの所見は何を表わしているのか、つまりどの様な肉眼所見が考えられるかについて述べる。日頃、X線所見と肉眼所見の関係さらに組織所見の対比を行うことが大切である。そうすることで、肉眼所見の組織学的な成り立ちを推定することができ、より理論的な診断を行うことができる。 一例一例を大事に検討することが大切である。