3)撮影体位と描出領域
撮影体位と撮影台の傾斜角度によって描出される胃粘膜領域が異なるが、空気量や造影剤の量によっても描出領域は多少変化する(胃の偏位や捻転が加わるからである)。
造影剤は高いところから低いところへ移動し、空気はその反対である。
精密検査では、造影剤を重力に逆らって、用手的に胃壁外から圧迫したり、押上げたり、あるいは擦り挙げたりしながら目的とする領域に移動させる。

4)良悪性の判定に当たっては、上記の二重造影第1法と第2法を併せて、次のような鑑別点を求めながら読影する。
1)異常な粘膜域があるかどうか?(粘膜面の模様像や付着異常、透亮像、ひだ集中の有無など)。異常な粘膜域がある場合は、どの様な粘膜の形態でどの位の大きさか?
2)周囲の正常粘膜との間に境界があるか?(どの様な境界の所見か?、辺縁隆起があるか?)
3)粘膜ひだの異常はあるか?

a.隆起病変:
隆起病変の大きさ、隆起基部の形、隆起の輪郭、表面の性状(形態)について読影する。
イ)大きさは2cmより大きいか、ロ)有茎性か無茎性かあるいは亜有茎性か、ハ)輪郭は不整形あるいは不規則か、二)隆起表面の形態は大小不同の顆粒状粘膜か比較的平滑(周囲性状粘膜と同じ)か、びらんや潰瘍を伴っているか。
○大きさが2cmより大きいものでは、悪性を考えて鑑別する。
○有茎性では、良性の上皮性病変が多い。無茎性では、表面形態や隆起の輪郭が問題となる(粘膜下腫瘍か上皮性腫瘍か)
○隆起の輪郭が、不整形なものは悪性を考えて、鑑別診断を行う。これは、上皮の胃内腔側への増殖が著明であることであり、癌ばかりでなく良性の過形成性ポリープ、や異型上皮巣でも認められる。従って、次の隆起表面の形状を見る必要がある。
○隆起表面の形状が、周囲粘膜よりも大きな顆粒を呈するものでは、上皮性の増殖性変化病変を考える。顆粒の形や大きさに不揃いさが認められる場合は、上皮性悪性病変である。隆起表面が比較的平滑な場合は、粘膜下層以下の壁肥厚(粘膜下腫瘍病変)あるいは粘膜深部層の肥厚がが考えられる。

隆起型早期癌あるいは辺縁隆起を伴う陷凹型早期癌の中には、粘膜深部の非癌上皮あるいは腺管の増殖、粘膜下の壁肥厚を伴うものがある。これらでは隆起部の表面形態はなだらかである。従って、隆起型早期癌あるいは辺縁隆起伴う陷凹型早期癌で隆起部の輪郭あるいはその表面が平滑な場合は、
a)癌上皮による隆起増殖はないかあるいは極く軽度な病変、
b)粘膜下層以下深部の壁肥厚(炎症性、粘膜下腫瘍性、癌性肥厚)を伴う病変が考えられる。
この様な形態を示す粘膜内癌の隆起部は、癌は粘膜の表層を占め、粘膜深部には腺管の増殖あるいは嚢胞状拡張腺管が認められる。良悪性の判定や深達度診断の指標になろう。

表面に潰瘍やびらんを伴うものでは、悪性を考えて鑑別する。但し、迷入膵やカルチノイド病変でも小陷凹や小潰瘍を伴う。しかし、後者ではなだらかな隆起を伴い、迷入膵では隆起の輪郭は平滑であり、カルチノイドでは隆起表面は周囲正常粘膜形態と同じである。

びまん性の隆起病変では、炎症性の粘膜肥厚病変、びまん性に浸潤した胃癌(スキルス胃癌)、悪性リンパ腫、胃アミロイドなどを考えて鑑別を行う。悪性リンパ腫では、a様の隆起形態、つまり大小顆粒状の隆起形態を示すことはまずない。

b.陷凹病変:
不規則な線状陰影、濃淡の差があるバリュウム斑、不規則な陰影斑あるいは不規則なバリュウム斑など、
大きさが小さければ小さいほど悪性の特徴を求めにくい。例えば、1cm以下では、良性病変も多い。よほどの特徴がないと良悪性の鑑別は当然難しくなる。粘膜集中を伴う小さなニッシェあるいは陰影斑では、ひだ間に溜まった造影剤の線状陰影がニッシェ部あるいは陰影斑部に連続しているかどうかを見る。悪性の陰影では、連続性が認められないことが多い(陷凹の辺縁隆起によってひだ間に溜まった造影剤が中断される)。たとえ、連続性があっても、周囲正常粘膜域と悪性のニッシェあるいは陰影斑部とでは線状陰影の形と濃淡に差が見られ、悪性の陰影斑部では線状陰影が急に濃くなったり、幅広くなったり、不規則な線状陰影となったりする。
異常な陰影と周囲との境界はあるか?(境界があればあるほど良悪性の判定の際の大きな目安となる)、その境界部所見はどうか?(陷凹部境界の所見と辺縁隆起部所見があり、また、いろいろな形の所見が認められる)。全体の輪郭はどうか?(不整形か、平滑で整形か)などについて読影し、良悪性の鑑別を行う。

陷凹の境界所見:
陷凹境界が明瞭なものほど、良悪性の鑑別は容易である。一般に陷凹境界が明瞭なものでは、陷凹面の凹凸変化所見にも良悪性の特徴が表れていることが多い。まず、境界が明瞭か微細かを見る。微細なものには、小区単位の中断やヤセあるいは細まり(小区単位でも良く見ると、中断やヤセ、あるいは細まりがある。それが不規則であれば蚕蝕像あるいはギザギザした線状陰影)、粗い波状、直線的な境界、小さな波状などがある。
陷凹辺縁の隆起所見:
小区単位の隆起所見から周堤状の隆起所見まである。
早期癌では粘膜進展境界部には正常粘膜との間に衝突面が生じ、胃小区あるいは胃小区が肥大したような類円形の透亮像やそれらが幾つか集った隆起所見が表れる。早期胃癌でも、a様の辺縁隆起を伴うものもある。この辺縁隆起部の陷凹側を見ると、粘膜ひだの場合と同じようにヤセ、中断、太まりとヤセなどの所見が認められる。
粘膜ひだ異常:
癌進展部粘膜でも、分化型癌のようにびらん化や潰瘍化しにくいものでは、粘膜ひだも陷凹の辺縁で中断することは少なく、瘢痕部つまり、陷凹の中央部まで認められることが多い。そして、ひだの先端部はなだらかに肥大することが多い。
未分化型癌のようにびらん化や潰瘍化しやすいものでは、粘膜ひだも陷凹の辺縁部で中断したり、急なヤセをしめしたりする。未分化型癌の粘膜ひだも陷凹の辺縁部では、なだらかな太まり像を伴うが、分化型癌のように小区単位の肥大所見はすくない。それだけ、びまん性の浸潤か限局性の浸潤かによって、肉眼所見に差がある訳である。


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