5.圧迫法
立位圧迫検査と腹臥位圧迫検査がある。
立位圧迫検査といっても、必ずしも立位でなくても良い。造影剤が多い場合は、撮影台の傾斜角度を変える必要がある。造影剤が多いと、立位では胃下部が過伸展の状態になり、圧迫の範囲が狭くなる。広い範囲を圧迫したい場合は、台を少し倒して余分な造影剤を穹窿部側へ移動させると良い。
良い圧迫写真では、二重造影の写真にも劣らない微細な粘膜像を写すことができるが、各種撮影法の中では、圧迫検査が最も難しい。

圧迫の程度には、弱い(軽度)圧迫から強い(高度)圧迫まである。
まず、弱い圧迫で、圧迫できる範囲内の明らかな透亮像やニッシェを探す。次に、強弱を付けながらバリウム斑が残るかどうかを探す。異常所見を発見できたら、どの様な肉眼形態であるかを表現する。

隆起病変の場合:
隆起部は有茎性か無茎性か?を見る(隆起基部の形)。
隆起部の輪郭は?(悪性では不規則な切れ込みや桑実状、ただし粘膜下層以下深部へ浸潤して隆起を形成しているものでは平滑な輪郭を呈するものが多い)。
隆起部の表面の性状(悪性では顆粒が不揃いあるいは不規則で、良悪性境界領域の病変は顆粒が小さく、均一に近い)は?。
周囲粘膜との関係:隆起病変の周囲に陷凹病変があるかどうか?

陷凹病変の場合:
潰瘍で見られるように明瞭な陷凹所見か?(ニッシェやクレーターなど)あるいは淡い造影剤の溜まり像か?(びらんや萎縮粘膜などで見られる)
その大きさは?
a.明らかな陷凹所見(ニッシェやクレーター)の場合:
陷凹部に十分造影剤が溜まっているかどうか?、陷凹の輪郭はどうか(不整形では悪性を考える)、陷凹の辺縁はどうか(。+cやc+。の場合はニッシェの辺縁が不整形であったり、ぼんやりしている)
陷凹の状態が二段陷凹か?(潰瘍の周囲に不整なびらんがある場合は陷凹が二段に見える、進行癌のクレーターも同じである)

b.浅い陷凹所見(淡い陰影斑や小バリウム斑)の場合:
c病変の一部を圧迫していたり、微細な凹凸を伴う萎縮粘膜を圧迫していることがある。
小さなc病変の場合は、辺縁隆起を伴っていることが多いので、わずかな透亮像があるかどうかを見る必要がある。
c内の微小なびらんや萎縮粘膜部を圧迫している場合は、淡い陰影斑は不整形で多発しているはずであるから、その様な所見があるかどうかを見る。ただし、分化型癌のc内の微小な陷凹部は淡い陰影の境界も不明瞭のことが多い。

圧迫検査で重要なことは深達度診断における読み方であろう。圧迫検査で透亮像が認められた場合、その透亮像は粘膜の凹凸変化だけでなく、胃壁全体の肥厚をも表しているからである。深達度診断にとって、重要な検査法である。
透亮像を認めた場合は、二重造影像と合せながら粘膜内の増殖変化か粘膜以下深部層の増殖変化かを分析する。例えば、二重造影像で透亮像がないのに、圧迫検査で明らかな透亮像が認められた場合:その透亮像(肥厚所見)の成り立ちは、粘膜下層以下深部胃壁の肥厚(sm以下の癌浸潤、粘膜下腫瘍、その他)が考えられる。
二重造影像で透亮像が認められ、
しかも圧迫検査でも透亮像が認められた場合:
その透亮像の成り立ちは、
1)粘膜固有層のみの肥厚(ポリープやaなどの粘膜の増殖肥厚病変)
2)粘膜固有層の肥厚と粘膜下層以下の肥厚
3)粘膜下層以下深部胃壁の肥厚である。

2)の場合は、二重造影像による粘膜面の所見をさらに分析する必要がある。同じ透亮像であっても、その透亮像の表面形態が典型的なaの様なあるいはポリープの様に粘膜固有層の増殖による肥厚所見でないことが明確であれば、その透亮像は、粘膜下層以下の深部胃壁層の肥厚と見做すことが出来よう。一般に、粘膜下層以下深部胃壁の肥厚による透亮像の場合は、その境界が粘膜下腫瘍様の所見に類似しており、粘膜面はc部あるいは周囲性状粘膜と同じであり、輪郭もなだらかな境界であることが多い。
3)の場合は、二重造影像で粘膜の伸展不良像があるかどうかを見る必要がある。粘膜の伸展不良像では、空気によって粘膜ひだの間隔や走行が変化するかどうかを見る。圧迫像でsm以下の肥厚所見が認められても、二重造影像で粘膜ひだの伸展不良像がなければ、癌によって生じたsm以下の肥厚所見はあっても、極く軽度に過ぎないことになる。


深達度診断の指標:乳ガンの視診と触診と同じである。見た形(肉眼形態)、さわって硬いか柔らかいか(直線化、伸展不良、ひだ間あるいは辺縁隆起部が空気や造影剤によって開大したり変化したりするかどうか)、そしてその厚み(欠損像の幅、透亮像の陰影の濃さ)と大きさはどうか、これを撮影法を駆使して推察する。これらの所見を総合して、肉眼型、壁肥厚の大きさと厚みを類推し、さらに癌組織型を考慮して最深部胃壁層を推定する。従って、X線的な深達度診断は高等な知的診断技術といってもよいだろう。


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