2)二重造影像、圧迫像あるいは粘膜像
粘膜ひだ、粘膜面の正常所見と異常所見を読む。良悪性判定に重要な所見をチェックしておく。他の人が目を閉じた状態でも肉眼像が想定できるように、大きな所見から細かい所見へと読影を進める(道案内と同じ要領で)。

例を挙げる。
“明らかなひだの集中像、隆起を思わせるはじき像、局所的な造影剤の溜まり像(ニッシェ)、ひだ肥大像などはありません”。
“胃体下部の後壁に粘膜ひだの集中を伴う、大きなバリュウムの溜まり像(ニッシェ)があり、その周囲にはなだらかな透亮像が見られる。
“ニッシェの形(造影剤がよく溜まった写真を選ぶことが原則である)はほぼ円形であるが、噴門側の一部と小弯側の一部はニッシェ辺縁がギザギザしており、この部の陰影斑は淡い(これは潰瘍の辺縁の一部に不整なびらん面があることを表わしており、III+IIcを疑うことができる所見である)”
“胃体中部に透亮像がある。大きさは約2cmで、その輪郭は少し切れ込みのある不整さがあり、表面は顆粒状で、顆粒の大きさにやや不揃いさがある(輪郭や表面の顆粒状凹凸に不揃いさがある場合はより悪性病変に近いことを表わしている)”
“幽門部後壁に透亮像が見られる、この透亮像は輪郭が明瞭であることから隆起基部の立ち上がりが急峻であることがわかる、そして透亮像の辺縁はところどころ切れ込みがあって、不整形であることを示している、透亮像の表面の形状は周囲粘膜よりやや粗大で大小顆粒状である、これらの所見から粘膜下腫瘍よりも、上皮性の隆起病変を考えたい”
“幽門部後壁に淡い陰影斑(わずかな造影剤の溜まり像)があり、その境界は不明瞭である。そして、陰影斑の中には大小の顆粒がみられ、とことどころに小さな濃い陰影斑がある(これも悪性所見の典型ではないが、濃淡の差のある陰影斑と大小の顆粒状陰影があることでは、やはり悪性病変を疑う)。

3)病変の肉眼形態と病変が存在する背景粘膜の特徴を挙げる(胃癌の三角)。
隆起型:
大きさ、輪郭の形、表面の性状を表現する。輪郭は平滑かあるいは切れ込みのある不整形か、表面は顆粒状か平滑か、平滑なものでは顆粒が消失したものか、隆起の中央あるいは近傍にバリュウムの溜まり(陰影斑)をともなっているかどうかなどについて見る。陥凹型胃癌の周堤部あるいは辺縁隆起の可能性があるからである。
陷凹型:
ひだ集中(既存の粘膜ひだとそうでないひだの集中があるが、厳密な使い分けはしていない。私どもは、潰瘍によって既存のひだがない部位に粘膜が集中した場合は単に粘膜集中と表現している)を伴っているかどうか、ニッシェ(明らかなバリュウムの溜まり像)を伴うかどうか、全体になんとなく濃い陰影斑か淡い陰影斑か、あるいは淡い陰影斑の中に大小の顆粒状陰影を伴っているかどうかを読む。次に、陰影斑の大きさ、形はどうか(円形、楕円形、いびつな形など)、陰影斑の中に顆粒状の透亮像(顆粒状陰影はないか)、顆粒状陰影がある場合はその表面の形はどうかなどについて読む。また、周囲との境界はどうか(明瞭か不明瞭か、あるいはぼんやりしているか)について読む。良悪性の判定や病変境界の判定では、周囲粘膜の所見と比較しながら行なう。

周囲粘膜の模様像については、前の項で触れたが、萎縮が少ない粘膜ほど胃小区間に造影剤が溜まって生じる網状陰影の線の幅は細く、網目がつまっており(開大せず)、規則的である。しかし、粘膜が萎縮するほど胃小区間の網状陰影の線の幅は部分的に開大し、顆粒が微細あるいは消失し、幽門部では粗大顆粒状(隆起型の腸上皮化生)になったりする。なお、粘膜萎縮の程度と顆粒の小型化、顆粒間の開大とは有意な関係にあり、さらに粘膜萎縮の程度は腸上皮化生の程度と相関する。従って、粘膜萎縮の程度が推定できれば、腸上皮化生の程度を類推することができることになる。

胃小区の山の部分が表われた顆粒(顆粒状陰影)は、網状陰影と表裏の関係にあるので、胃小区の大きさ、形、配列は、萎縮粘膜ほど大きさや形が不規則で、部分的な消失や微細化がみられる。しかし、癌の粘膜面ほどそれらの形態に不整さはなく、周囲粘膜との境界が見られない(局面形成がない)ことが特徴である。

周囲粘膜の模様は病変の存在、質、拡がり診断の際に役に立つ。周囲粘膜の読み方は、簡単ではないが、例えば“顆粒(胃小区の山の部分)の大きさはやや小さく、大きいところと小さいところがあり、部分的に顆粒が消失したようなところも認められるので、中等度ないし高度な萎縮を伴った幽門腺粘膜領域である”、“顆粒の大きさはやや大きく、形は角張っており、その配列に乱れはなく、顆粒間の網状陰影(胃小区の間に造影剤が溜まって生じる)にも局所的な溝の開大や濃淡の差はみられない(萎縮のない胃底腺粘膜領域)”などである。
4)病変の部位と病変数を読む(部位と個数)。
5)考えられる代表的な病変を挙げる(鑑別の対象となる病変)。
通常、所見によほどの特徴がない限りは、最も頻度の高い順に上げる(後述)。ただし、羅列すればよいことではなく、最も考えられる病変あるいは鑑別に必要な病変をあげるべきである。
6)質診断と鑑別診断を行う(X線所見と肉眼所見さらにその組織的構成を考えながら、診断根拠となる所見を挙げる)。特に、癌の診断がついたら深達度や胃壁内の拡がりの診断を行なうが、その際には診断の根拠となる所見を挙げる。

日頃、肉眼所見とX線写真の対比を行い、自分なりの所見や問題点を言葉で表現し、読影に習熟しておく。勿論、病理結果が判明している症例についても十分に検討しておくことが大切である。診断結果の検討では、その成否だけでなく、所見の読みや撮影法が正しかったかどうかの検討が重要である。また、微細な変化所見についても肉眼所見とX線所見の1対1の対応を行う。肉眼所見あるいはX線所見がどのような組織構築で成り立っているかを組織切片を顕微鏡下に見ながら分析し、読影や撮影法の再確認や反省を繰り返し行うことが正確な診断の早道である。各撮影法の利点と欠点ならびに特徴についてまとめると、以下の様になる。


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