充盈像
立位と腹臥位がある。撮影枚数に制限がある場合は腹臥位充盈法を選択するとよい。少ないバリュウム量でも充盈される領域が広いからである。最近、高濃度・低粘度の造影剤が開発され、集検間接撮影では二重造影法を中心とした撮影の組立を行う施設が増加して来ている。
1)撮影体位
立位正面、腹臥位では第1斜位(腹臥位で左側を挙上した右前方位)、第2斜位(腹臥位で右側を挙上した左前方位)かどうか。腹臥位の第1斜位では幽門と十二指腸球部の関係が表れ、第2斜位では胃角部と体部の小弯沿いが表れる。
胃壁の緊張、蠕動波の有無などについて見る。また、抗コリン剤が使用されているかどうかを見ておく。辺縁の異常か正常所見か迷うことが多いからである。
2)造影剤の量もチェックしておく
充盈されていない部位では辺縁の異常所見が十分の表われていないことがあるからである。
3)読影
胃の位置や形の異常、大小彎のバランス(均衡)を見る。内臓逆転症では左右が逆転している。穹窿部の輪郭が表れている場合は、穹窿部の膨らみ具合や、穹窿部辺縁の輪郭の異常(辺縁の異常)をチェックしておく。胃体部の大彎側は、正常の粘膜ひだによって鋸歯状を呈する。
a.胃の形
通常の胃の形には、鉤状胃、下垂胃、牛角胃(高揚胃;胃角が十二指腸より高い位置にあるもの)、瀑状胃がある。病的胃には、嚢状胃(線状潰瘍による胃角部が短縮して胃は嚢状を呈する)、砂時計胃、B型胃、幽門狭小胃、切除胃があり、それぞれ特有な形を呈し、胃の形から大まかな質診断も可能である。

嚢状胃:胃角部の線状潰瘍によって、小彎の著明な短縮を生じた胃の形である。小彎の短縮によって、胃体下部から幽門部が袋状になり、典型例では胃角部に十二指腸球部が接したような形を呈する。
幽門狭小:幽門部の進行癌や幽門部の多発潰瘍あるいは胃角部の線状潰瘍例に幽門部の多発潰瘍が合併すると容易に幽門の狭小化が生じる。立位充盈像でも表れるが、腹臥位充盈のほうが分りやすい。幽門狭小化は幽門部、あるいは幽門部と胃角小弯に多発潰瘍を合併した早期胃癌病変でも見られるので注意が必要である。また、幽門輪部の異常は腹臥位充盈で最もよく表れるので、十二指腸底部と幽門前部の形ばかりでなく、幽門輪の形にも注意を払う必要がある。
砂時計胃:胃体部の接吻潰瘍あるいは胃体部の全周性収縮を来した癌
B型胃:胃体部小彎の多発潰瘍
瀑状胃:病的胃の場合もあるが、多くは大腸内のガスによる圧迫で偏位したものが多い。
胃体部の多発潰瘍や胃癌の中には、胃の変形所見から大まかな胃病変の質や部位の推定ができることも少なくない。

b.読影
大小彎線(胃辺縁)の異常があるかどうかを見る。読影での表現はあまり固有名詞の言葉でないほうがわかりやすい。例えば、“ここの胃体部の小彎線はスムースであり、特にチェックするところはない”、“ゆるやかな凹凸である”、“ここのところでわずかに陷凹し、角張った突出(急で小さな変化はアクセントがついていると表現してもよい)があり、また浅くゆるやかに陷凹している”、“幽門部の小彎線(小彎の辺縁)を見ると、ギザつきが見られ、その両側に二重の線(複線化)が見られる、胃体部の小彎線が明らかに陷凹(へこみ)しており、その中に半月状の突出(とび出し)した陰影が認められる(これは陷凹の中のニッシェであり、早期癌の辺縁所見である)”、“胃体部大彎線(辺縁)は不規則でギザギザしているが、同部の既存の粘膜ひだは十分に残っており、局所的なひだ肥大やひだ走行変化は特に認められず、伸展性はよい(正常像と思われる)”などである。

胃辺縁の異常:胃辺縁の陰影は胃の内腔面が表れたものであり、X線的な胃辺縁像は撮影体位を変えることによって、表れる部位が変わる。辺縁所見を読んだあとは、その所見が病変とどのような関係にあることが推定されるかを述べる必要がある。辺縁壁にへこみ像があった場合は、その陰影に恒常性があるかどうかを見て、恒常性があればそれは陰影欠損像あるいは伸展不良像と見做してよい。ただし、直線化の場合は、胃壁のねじれ(捩れ)によってその部が接線効果により、直線化像として表われることがあるので注意する必要がある。
まず、陰影欠損、突出陰影(ニッシェ)、伸展不良、彎入、直線化、不整像(大小彎線が不規則にあるいはギザギザしているか)、複線化(二重造影像で大小彎線が二重あるいは半月状ないし弓状の線状陰影として表れるが、これは粘膜の隆起部が接線像として現れたものである)の有無をみる。
陰影欠損像にはその中に突出陰影(ニッシェ)が合併(悪性所見の代表的所見とされている)していることもある。癌では胃壁は正常より固いので、辺縁が直線化したり、欠損したりして表われるからである。また、よく見ると辺縁は微細ではあるがギザギザした不整を呈することが多い。

陰影欠損像:バリュウムまたは空気(造影剤)で満された胃陰影の辺縁が、何等かの原因によって部分的に欠損した場合を云う。通常は充盈像や圧迫像に対して用いられるが、半充盈のような二重造影や粘膜像に近い圧迫像に対して用いることもある。胃内腔に向かって突出した隆起した病変であれば、胃癌に限らず陰影欠損像として表れる。陰影欠損には、胃内側陰影の欠損(正面像に於ける陰影欠損像)と胃外側縁(辺縁)の欠損(側面像に於ける陰影欠損像)がある。陰影欠損が明瞭でない場合は、伸展不良像あるいは直線化像と表現する場合が多い。二重造影の際に造影剤を流したり、溜めたりして表れる小規模な陰影欠損像、あるいは圧迫検査で表れる小規模な陰影欠損像は透亮像と云う言葉で表現することが多い。
胃外性圧排でも陰影欠損像が表れる(胃外性圧排によるものは腹式呼吸や胃壁の伸展具合によって、欠損部が移動したり変化したりするので鑑別は容易である)。

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