胃辺縁の異常:胃辺縁の陰影は胃の内腔面が表れたものであり、X線的な胃辺縁像は撮影体位を変えることによって、表れる部位が変わる。辺縁所見を読んだあとは、その所見が病変とどのような関係にあることが推定されるかを述べる必要がある。辺縁壁にへこみ像があった場合は、その陰影に恒常性があるかどうかを見て、恒常性があればそれは陰影欠損像あるいは伸展不良像と見做してよい。ただし、直線化の場合は、胃壁のねじれ(捩れ)によってその部が接線効果により、直線化像として表われることがあるので注意する必要がある。
まず、陰影欠損、突出陰影(ニッシェ)、伸展不良、彎入、直線化、不整像(大小彎線が不規則にあるいはギザギザしているか)、複線化(二重造影像で大小彎線が二重あるいは半月状ないし弓状の線状陰影として表れるが、これは粘膜の隆起部が接線像として現れたものである)の有無をみる。
陰影欠損像にはその中に突出陰影(ニッシェ)が合併(悪性所見の代表的所見とされている)していることもある。癌では胃壁は正常より固いので、辺縁が直線化したり、欠損したりして表われるからである。また、よく見ると辺縁は微細ではあるがギザギザした不整を呈することが多い。

陰影欠損像:バリュウムまたは空気(造影剤)で満された胃陰影の辺縁が、何等かの原因によって部分的に欠損した場合を云う。通常は充盈像や圧迫像に対して用いられるが、半充盈のような二重造影や粘膜像に近い圧迫像に対して用いることもある。胃内腔に向かって突出した隆起した病変であれば、胃癌に限らず陰影欠損像として表れる。陰影欠損には、胃内側陰影の欠損(正面像に於ける陰影欠損像)と胃外側縁(辺縁)の欠損(側面像に於ける陰影欠損像)がある。陰影欠損が明瞭でない場合は、伸展不良像あるいは直線化像と表現する場合が多い。二重造影の際に造影剤を流したり、溜めたりして表れる小規模な陰影欠損像、あるいは圧迫検査で表れる小規模な陰影欠損像は透亮像と云う言葉で表現することが多い。
胃外性圧排でも陰影欠損像が表れる(胃外性圧排によるものは腹式呼吸や胃壁の伸展具合によって、欠損部が移動したり変化したりするので鑑別は容易である)。

1)側面像に於ける陰影欠損像:充盈像に於ける陰影欠損と圧迫を加えることによって表れる陰影欠損がある。陰影欠損像は病変の肉眼形態と壁の質的変化(特に壁硬化)とよく一致する。陰影欠損像が認められ場合は、その形や大きさ(欠損像の基始部)を見る。欠損像の基始部が立ち上がり明瞭な場合は、病変境界が限局性であることを表しており、なだらかな場合は、病変境界がびまん性であることを表している。癌に潰瘍を合併している場合は、欠損像の中に潰瘍部と一致して突出陰影が表れる(schattenplus im schattenminusと云う)。癌は早期に潰瘍を形成し、癌周囲に周縁壁(randwall)を形成する。この周堤を形成する潰瘍型胃癌が彎在性にあると、圧迫することによって隣接健康部と癌部は周堤によって鮮鋭に境され、半月状の陰影欠損として表れる(メニスカス症状;Meniscus-symptom; Carman 1927)。これは、胃体部の周堤形成を伴う潰瘍型癌で見られる所見で、凸レンズ状の陰影が凸部を外方へ、凹部を胃内側へ向けた像を呈することから云われている。幽門部ではこの反対の像、すなわち胃内腔へ向かって凸の状態となるとされているが、病変の壁在性、大きさ、肉眼形態によっても差があり、単に病変部位による差ではなさそうである。いずれにしても、周堤によって囲まれた悪性潰瘍部の陰影は不整形であることを知っておく必要がある。

悪性病変の胃辺縁像には大小彎線の欠損像(あるいは陷凹像)、伸展不良像、あるいは直線化像に不整さを伴い、深部浸潤の程度によってそれらの所見は軽微であったり、顕著になったりする。
消化性潰瘍(開放性潰瘍)でも潰瘍壁の肥厚部は平滑な欠損像として表れ、その中に突出像(ニッシェ)が認められる。消化性潰瘍では、ニッシェの壁側先端は辺縁線より突出しているものが多いが、早期胃癌に合併する潰瘍は、側面ニッシェ部が健常部胃壁の辺縁を結んだ線から突出しないことが多い。これは早期癌の合併潰瘍はul−2が多いからであり、ul−2より深い潰瘍を合併した早期癌例では胃辺縁を結んだ線からニッシェ部は突出する。
粘膜下以下深部胃壁をびまん性に浸潤した胃癌(4型進行胃癌)では、前述のように胃壁の肥厚と硬化の程度によって異なるが、比較的限局した深部浸潤癌では画然とした伸展不良像ないし陰影欠損像として表われるが、びまん性浸潤癌ではなだらかな伸展不良像ないし欠損像として表れる。深達度診断の指標は、癌浸潤に伴う深部胃壁の肥厚と硬化(固さ)である。壁の硬化は充盈像では伸展不良、二重造影像ではひだ間の伸展不良像として現れる。

正常の胃蠕動運動、生理的な胃壁の局所的緊張によって胃辺縁の異常として見えることがある。胃辺縁の胃壁に質的変化がある場合だけでなく、胃辺縁から離れた胃壁に潰瘍病変があって、壁の収縮(引きつれ)を来した場合にも認められる。
2)彎入:病変が大小彎側に存在しなくても、病変に潰瘍を合併したものでは、胃壁の瘢痕収縮によって大小彎の辺縁に切れ込みを生じる。正常では、幽門部の胃蠕動運動による彎入が認められる。輪状筋が発達している部に著明に認められる。これらの像は、二重造影像でも現れる。胃体部では小彎側は縦走筋が発達しているので、彎入はむしろ大彎側に認められる。生理的な彎入はその輪郭が平滑で左右対称である。
3)直線化:胃辺縁像が直線的な像を呈することである。胃壁が何等かの原因で緊張、硬化した場合に認められるが、胃の軸捻(ねじれ)によっても、ねじれの部が直線化として現れるので注意する必要がある。これらの像は二重造影像でももちろん表れる。
4)複線化(二重造影像に限る):二重造影で表われる所見であるが、ついでに説明しておく。通常、一本の線として表れる胃辺縁の陰影が複数の線状陰影として表れる場合がある。粘膜に隆起変化を伴う病変に多いが、胃外性圧排による粘膜隆起でも表われる。潰瘍による深部胃壁の炎症性肥厚や粘膜下腫瘍による粘膜下の肥厚、aやポリープなどの上皮性隆起による肥厚でも表われる。結局、胃辺縁から少し離れた隆起表面が接線像として表れ、隆起の高さの判定として役に立つことが多い。X線的な大小彎線が局所的に二重の線状陰影つまり複線化像(弓状、半月状の陰影)として表れる。

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