II.撮影法と読影のポイント

1.粘膜像(レリーフ像)

少量の造影剤で胃粘膜ひだを表す撮影法である。
背臥位と腹臥位で撮影するが、一般に腹臥位で撮影されることが多い。
粘膜像といっても圧迫用のフトンで圧迫を加えたり、少量の空気が入る場合もある。従って、充盈像と二重造影法さらには圧迫法との厳密な区別はない。
粘膜法では、大まかな粘膜ひだの形態異常(形、大きさ、走行の異常)とニッシェ(潰瘍病変)や透亮像(隆起病変)の有無をチェックする。
利点:造影剤の量が少なくて済むこと、検査手技が容易であること、胃粘膜を広く表すことができることである。
欠点:粘膜ひだと同じ大きさの病変は描出されるが、それより小さな病変は表れにくいこと、胃液が多い場合は微細病変は表れないことである。
腹臥位粘膜像は造影剤の量の調節が難しく、圧迫用のフトンで圧迫しながら余分な造影剤を描出領域から移動させて撮影することも必要である。
a.圧迫を加えた腹臥位の粘膜法は小彎側や幽門部領域に存在する病変に有効である。
b.深達度診断に重要な粘膜下層の肥厚や凹凸変化など、胃壁の肥厚を表すことができる。
c.胃液を十分に排出した精密検査では、微細な粘膜の凹凸変化を描出できる。

前述の、小彎側や幽門部領域の病変に対しては、胃液を排出したレリーフ像(圧迫を加えた)を積極的に撮影すべきである。
1)どの様な撮影手技か
撮影体位はどうか(腹臥位か背臥位か)、造影剤の量はどうか(造影剤の量が多い場合は、粘膜像というより半充盈像となる)、圧迫が加えられているかどうかを見る。
腹臥位圧迫像の撮影には、椎骨を利用した圧迫法と圧迫用のフトンを用いた圧迫法がある。病変を確認できたら、椎骨陰影(とくに棘突起)と病変部が重ならないような像も撮影する(微細な病変の場合、椎骨陰影が読影の邪魔になる)。その際、ひだ間がなるべく開いた状態の写真を撮影する様に心掛ける(左官の壁塗りのテクニック)。圧迫様のフトンは、小さく、薄いものから順に大きく、厚くする。また、圧迫しながらゆっくり体位を左右へ変換したり、腹式呼吸によって、病変部をフトンと椎骨部で挟み付ける様にし、病変がフトン上を移動(左右あるいは上下)させてみる。そうすることで、粘膜に付着した余分な粘液を取り除くことができるからである。この手技は胃チューブで胃液を排出する際に用いると粘稠な胃液を排除することができる。

2)異常所見はあるか。
粘膜像では、粘膜ひだの異常(大きさ、形、走行)の他に、明らかなニッシェや造影剤の溜まり像あるいは透亮像(隆起病変)があるかどうかを見る。
3)異常所見の部位、数は
a.透亮像のみの場合:限局性のものでは、粘膜下腫瘍(平滑筋腫、平滑筋肉腫、カルチノイド、迷入膵、神経鞘腫など)、ポリープ、隆起型癌、限局性の深部浸潤癌、炎症性の粘膜隆起 。びまん性のものでは、肥厚性胃炎、胃アミロイド、びまん性に浸潤を来す病変(癌、悪性リンパ腫、RLHなど)。小さなポリープ様陰影が多発性のものでは胃体部の嚢胞性ポリープ(萎縮のない胃底腺粘膜領域あるいは比較的若年者の胃体部に多い)、再生性ポリープ(胃体中部の前後壁に腺境界上に胃の横軸方向に配列する)、多発癌、MLP(Multiple Lymphomatous Polyposis;多発性のリンパ球性ポリポーシス)、FAP(家族性腺腫性ポリポーシス)、転移性腫瘍などがある。非上皮性腫瘍(粘膜下腫瘍の殆ど)では、隆起の表面や輪郭も平滑で、立ち上がりもなだらかである。しかし、大きい病変では潰瘍化を伴う。上皮性腫瘍では小さいものでは表面や輪郭も平滑であり、立ち上がりもなだらかなものからくびれ(亜有茎性)のものまであり、2cm前後の大きさになると悪性病変が増加し、表面は大小顆粒状で、輪郭も不規則な形になる。有茎性でも2cmを越えると悪性が多く、平盤状ないし盃状の隆起で表面が大小顆粒状のものは悪性を考える。

b.ニッシェを伴う場合:潰瘍(活動期)、癌、粘膜下腫瘍(病変が5cmを越える大きさの場合は平滑筋肉腫、稀にカルチノイド)、悪性リンパ腫、RLHなど。
背景粘膜の質との関係はどうか:潰瘍あるいは陥凹病変では、胃癌の三角を考慮して、良悪性判定を行う。
病変の数は;多発性の場合は、全身性または転移性腫瘍も考えておく。
病変の境界は;明瞭か、不明瞭か。輪郭は整か、不整あるいは不規則か。病変の輪郭が明瞭なものほど両悪性の判定は易しい。悪性病変では腫瘍の発育・進展によって、周囲粘膜との境界はより不整(不規則)
な形を呈し、正常粘膜との衝突部(辺縁)には所見の規模に差はあるがいろいろな形の隆起が見られる。

粘膜ひだとの関係はどうか。
粘膜ひだが集中しているか、ひだの一部が透亮像部へなだらかに移行しているかどうかを見る。なだらかな移行が認められる場合は、その隆起部は粘膜自体(粘膜固有層)の増殖(肥厚)によるものではなく、いわば粘膜下腫瘍的な要素で隆起していることになる。なだらかな移行が認められない場合(粘膜ひだ先端部と隆起部が無関係)は、その隆起部は粘膜自体が肥厚隆起していることを想定し、隆起部の表面形態を読む。周囲粘膜より顆粒状陰影が目立ち、さらに顆粒の大きさが不揃いであれば、粘膜上皮の不規則な増殖を意味している。隆起変化であっても、表面の顆粒状陰影にさほど乱れがない場合は、表面上皮の形態を保ったまま粘膜深部が肥厚している(幽門腺粘膜であれば幽門腺の過形成を伴う病変;隆起型のタコイボびらん、悪性リンパ腫の隆起部、炎症性の隆起病変など)。しかし、病変が小さい場合は、上記所見の分析ができないことが多いので注意が必要である。

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