二重造影における胃小区像の読み方
早期胃癌検診協会 馬場保昌

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.粘膜像の最小単位は胃小区模様。
胃粘膜像を構成する最小単位は胃小区像である。胃小区は胃小区間の溝で囲まれた粘膜の小さな区域である。胃小区間溝で区画化された粘膜部つまり山の部分の平面像は顆粒状の透亮像として表れ、溝の部分の平面像は網状の陰影として認められる。したがって、網状陰影と顆粒状陰影は表裏一体の関係にある。
しかし、粘膜萎縮が進み顆粒状陰影が微細化した状態では小区間溝は極端に幅広くなり、もはや網状陰影としてよりも、単に平坦な粘膜像として見える。
この胃小区の模様は,高濃度・低粘度の造影剤を使用するようになってよく見られるようになっている.従来の造影剤では粘稠度が高すぎたことが原因であろう.ひるがえって,この胃小区模様は何を表しており、何を読みとることができるのかが問題である.

正常粘膜の小区模様
正常胃粘膜の粘膜面には腺管の開口部である腺窩(小窩)とそれを取り巻く小区間の溝から成り立っている。
胃小区は胎生9〜10ヶ月から出現するとされている。胃小窩と胃小区間溝は組織学的には区別がつきにくく、その違いは窪みの深さと幅の差であるとされている。
萎縮のない胃粘膜の小溝は数腺管単位に見られ、萎縮が進むにつれて、ほぼ平坦であった粘膜面に浅い溝が出現し、微細で不完全な網状陰影として認められる(網状化)。
次に、萎縮の段階で浅い溝の一部に深い溝が形成され、粘膜が大まかな顆粒状に区画化される(顆粒の輪郭化ないし区画化)。萎縮が中等度の時期では、深い溝の拡大、浅い溝も深い溝へ変化し、大きな顆粒は中顆粒へと分画されていく(分画化)。
萎縮が高度な時期では顆粒はさらに細分画化され小顆粒(顆粒の小型化)となる。そして、萎縮の進行に伴い、深い溝は拡大・融合し、顆粒間はさらに拡大し、顆粒の大きさや形の均一性が乱れてくる。浅く不完全な網状化→区画化→分割化→小型化と言うことになる。
X線像では顆粒の中央部にカエルの卵に見られるような微小なバリュウム斑(陥凹)として見られるが、この部が胃小窩に相当すると思われる。
このカエルの卵に似た顆粒状隆起中央の微小バリュウム斑は、癌粘膜であっても腺管を形成する上皮形態(癌上皮であれ非癌上皮であれ)であれば、腺窩部にバリュウムが溜まり、微小陰影斑とその周囲の顆粒状隆起として現れるはずである。
したがって、カエルの卵に似た顆粒状隆起の中の微小バリュウム斑部は分泌腺管の存在を示しているのであって、それが癌腺管か非癌性腺管かの鑑別は,経験的な裏付けであるが、癌上皮部ではこの小窩と思われる微小なバリュウム斑所見の拡大や不明瞭化ないしは消失として見られ,顆粒の大きさや輪郭も不揃いであったり,輪郭が不明瞭なものに多い.
癌粘膜内の再生上皮も形態的には幼若な上皮であるので,腺窩を形成する上皮では微小バリュウム斑と顆粒のいずれもやや大きいことが特徴のようである.
いずれにしても、癌上皮か非癌上皮かの区別は胃小区の大きさ、形、配列などにそれぞれの特徴を求めることになろう.

胃小区像はX線像で見られる粘膜表面の形態を表したものであり、粘膜固有層全体の組織構築を表したものではない。表面形態から粘膜全層の構築像を推定することは難しいが、なんらかの関係がみられるのではないだろうか.たとえば、
1)胃小区の形態は粘膜萎縮の程度と相関する
2)粘膜萎縮の程度は腸上皮化性の程度と相関することなどである.
これらを基本に、粘膜萎縮や腸上皮化性に伴う粘膜固有層の組織変化を考慮することで、粘膜固有層に生じる様々な組織像を推定することも可能になろう。
この粘膜萎縮や腸上皮化性の伴う組織学的な粘膜変化に関しては、現在のところまだ不明な点が多い。これからの検討が期待されるところである。
ところで、この胃小区像は二重造影法の手技、つまり粘膜面への造影剤の付着状態や厚み(造影剤を粘膜面に溜め、流す操作を行うので)を変えながら撮影するので、胃小区像の現れ方に差(顆粒が小さく見えたり、顆粒間の網状陰影が幅広く見えたりすること)があることを知っておく必要があろう。

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